化粧

2014年6月30日更新

肩で風を切っていた毎日。デザイナーとしてあふれんばかりの才能を発揮し、引く手あまたの生活。怖いものは何もなかった。自由を謳歌し働いた糧で、イタリアを往復。毎日が晴れだった。

Yさんをくも膜下出血が襲った。大きな病の爪痕は無残にも、歩くこと、描くことを奪い去った。当時を振りかえるようこさんは、「何が何だかわかりませんでした」と語る。 退院後は、更に脚の痛みが加わり、いつも涙をこぼしている彼女と私たちは出会った。 そのYさんに、トンネルの出口から光が見えた。「フルメイクアップ 2950円 最新ファッションビル ヒカリエ」スタッフと広告を眺めていると「私、行きます」と呟いた。何でもトライが信条のふらっとは、車いすのYさんと、いざメイクアップへ出発。 無論、整った顔立ちもあるが、メイクは、病前の彼女を知らない私たちも、容易にその姿を想像することができるほど、「凜とした美しさ」に仕上がった。「きれいだね」というスタッフに「化けてみました」とユーモアで返す。全身の苦しみから解放された表情は輝いていた。「ねー私、スキップがしたい!」の第一声に、スタッフは言葉を失った。どれほどの悲しみと苦しみがようこさんを縛っているか…「イタリア旅行だって、行けるよ。車いすだって大丈夫、Yさんの決心ひとつ」とスタッフが語ると、じーっと思いを巡らし暫くの沈黙の後「いいんですよね、車いすでも」と自問自答のように呟く。そして振り切ったように「私決めました…ファンキーに生きます!」と。 思いのたけを全身で伝えた後、メイクで輝いていた顔に涙が一筋流れた。 きっと、彼女はイタリアへ行くに違いない。そして今まで以上に輝いく人生を駆け抜ける。Yさんを春風が誘っている。

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